DX(デジタルトランスフォーメーション)。この言葉が多くささやかれてきたのは2015年前後ぐらいからでしょうか。日本では、経済産業省が2018年に発表した、通称「DXレポート」。このころからDXという言葉が浸透していきました。それから6年がたちます。様々企業がトライをし成功も失敗もいろいろでてきました。今一度、DXについて考えてみます。
コンテンツ
1.そもそもDXとは。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルや経営戦略を変革することです。そして新たなビジネスチャンスを創出するプロセスを指します。
昨今であれば、AI(人工知能)IoT(インターネット・オブ・シングス)。そのほかにはビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの技術の活用です。
2.DXはなぜ嫌がられるのか。「現状否定」。
DXという言葉を聞くと、一種の流行語のようになっている側面は否めません。中にはDXを単なるマーケティングの道具として捉え、本質的な意味合いを見失っているケースもあるかもしれません。
その結果、DXの失敗事例ばかりが注目を集め「DXは面倒で良くない」というネガティブなイメージが形成されてしまったケースもあると思います。
また、DXが「現状否定」として受け取られてしまうことは、社内の抵抗感を生む大きな要因の一つです。長年培ってきた業務プロセスや組織体制を変えることは、決して容易なことではありません。特に、現在の体制を築いてきた方は「今までの努力が無駄だった」と感じられてしまうかもしれません。
また、DXの実現には新しいスキルの習得が不可欠です。そのため、AI、IoT、ビッグデータ解析など、デジタル技術に関する知識やノウハウを身につける必要があります。
これは、長年培ってきた自分の専門性が脅かされているように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
さらに、業務の最適化を避けることで自分の存在価値を守ろうとするケースもあるかもしれません。これは言語道断です。
以上のように、DXに対する抵抗感には様々な要因が考えられます。
特に「時代の変化に伴う必然であるにも関わらず、現状否定と受け止められてしまう」ことが最大の原因だと言えるでしょう。
3.「現状否定」ではない。時代への波乗り。
ではどうするのか。
もちろん、倫理や道徳の範囲内ですが、多くの民間企業や、事業会社において仕事は競争なのは至上命題です。利益がたてばそれが最適解です。
ひと昔前の最適解
例えばですが、ひと昔前(数十年以上前)は売上管理は紙ベースで行われていました。そして計算はそろばんや手計算に頼るしかありませんでした。
それが、電卓の登場によって大きく変わります。当初は非常に高価だった電卓も、次第に手の届く価格になり、多くの企業で導入されるようになりました。
そして現在では、パソコンとエクセルの組み合わせが主流です。その結果、自動計算や様々な分析が可能となっています。このように時代に合わせて最適解が変わっています。
最適解は常に変わる
重要なのは、時代に合わせて最適解を追求し続けることです。「昔からこうだから」と現状に甘んじていては、競争に取り残されてしまうでしょう。常に新しい技術動向に目を配り、自社の業務にどう活かせるかを考える。
この時代によって変わるということを受け入れないとなると、今すべての計算を電卓を使わずにそろばんをたたきますか?ということになります。そのようなことをする人は多くないでしょう。
もちろんひっ算を学び、そろばんの原理を知ることで暗算速度があがり、広がる視野もあります。
ただし業務速度を求められる競争においては致命的です。
手で計算するのが最適な時代もありました。
そろばんで行うのが最適になった時代もありました。
そして電卓で行うのが最適にもなりました。
そしてすべてのデータを連動し計算すらいらない時代になりました。
先ほどのように時代の流れを拒否しても、利益がたち続けるのであればそれでもかまいません。
現状維持は限りない衰退 の理由
例えば競合他社がDXを推進し、業務の効率化と生産性の向上を実現したとします。そうなれば、コスト削減やリソースにで余裕がでたことで、新たな事業展開により、競争力を大きく高めることができるでしょう。その結果、市場でのシェアを拡大し、利益を伸ばしていくことが可能となります。
一方、波に乗り遅れた企業は、非効率的な業務プロセスに縛られ結果コスト高になりがちです。
利益率の低下は避けられず、投資の余力も失われていきます。これでは、新たな事業展開や既存事業の拡大は望めません。従業員への還元も難しくなるため、優秀な人材の流出にもつながりかねないのです。
現状維持は限りない衰退です。
こうした状況に陥れば、企業の存続そのものが危ぶまれることになります。日々刻々と変化する経営環境の中で、変化を拒み続けることは、首を絞めている状況です。
なのでDXは「現状否定」ではなく「時代への波乗り」です。
4.万物流転。時代は流れる。
DXの本質は「現状否定」ではなく「変化への適応」にあると言えます。万物流転の理を体現するように、ビジネスを取り巻く環境は常に変化し続けています。その中で、過去の成功体験や既存の業務プロセスに固執することは、時代の流れに逆行するものと言わざるを得ません。
そろばんから電卓への移行が、業務効率の飛躍的な向上をもたらしました。そのようにDXは企業に大きな変革の機会を与えてくれます。AI、IoT、ビッグデータなどの新しい技術を取り入れる。そうすることで、これまでにないビジネスモデルや付加価値の創出が可能となるのです。
波乗りはタイミング
重要なのは、この変化の波をいかに捉え、自社の競争力強化に結びつけるかということです。
DXへの取り組みが早く、うまく適応できた企業は、他社に先んじて市場での優位性を確立することができるでしょう。一方で、変化への対応が遅れた企業は、競争に取り残される危険性があります。
ただし、早すぎる変革は時として危険を伴います。新しい技術やツールへの投資が、十分な見返りを生まない可能性もあるのです。そして、経営者には時代の流れを的確に読む。自社に適したDXの方策を見極める力が求められます。
例えば、現在はノーコードツールやBtoB SaaSの活用です。それが、業務の最適化と生産性向上に大きく寄与しています。しかし、これはあくまでも現時点での最適解に過ぎません。数十年後には、また新たなソリューションが登場しているかもしれません。
大切なのは、その時々の変化を敏感に捉え、柔軟に対応していくことです。
5.DXはするものでは利用するもの。手段であり目的ではない。
DXが「時代への波乗り」だとして、波乗りを目的にしてはいけません。
先ほど申し上げた通り企業は競争です。競争することでお互い切磋琢磨し存在意義が生まれます。その結果として企業は社会の公器として役割を果たすことができます。
競争に出し抜くこと。そのために波乗りするのであり、DXをすることをゴールにしないようにする必要があります。
あくまでも目的はDXをすることで最適化された結果として「他企業との競争(差別化)に勝つこと」です。
6.DXの最大のカギは人材ではあり、最後はパワー()。そして真摯さ。
DXの推進には様々な課題がありますが、最終的にはパワーが重要だと思います。
DXは多くの場合、組織内で抵抗にあうことが多いです。
その理由は変化に対する不安や恐れ、既存の業務プロセスへの執着などが考えられます。しかし抵抗する人々はその心理状態を言語化できていないことが多いのです。
先ほどの電卓の例を挙げればその通りですが、最初はそれすら導入を拒否した方々はいたと思います。
そろばんの方が慣れてるから早いと。最初はその通りです。
電子化もそうです。2024年の今でも紙が残っている企業も多くあると思います。
一人一人に丁寧に説明していけば、理解を得ることはできるかもしれません。しかし、ビジネスの世界では速度が求められます。時間をかけて全員の理解を得ようとしていては、競争に遅れをとってしまいます。
そこで、まずはDXを始めてみることが大切だと思います。
例えば、電卓を導入したとき、最初は抵抗があったかもしれません。ただ使ってみればその便利さに気づきます。そして後から賛同を得られるようになったのではないでしょうか。
ただしパワーだけでなく真摯さも重要
ただしパワーを行使する前に、徹底的な準備と理解を得るための努力は必要不可欠です。
関係者への説明を尽くし、懸念事項に真摯に向き合い、できる限りの対策を講じる。
それでも残る抵抗に対しては、最後の手段としてパワーを使う。その意識を持つことは絶対に必要です。
その姿勢自体、そのプロセス自体が真摯さ、誠意としてつたわります。
その真摯的な姿勢そのものが理解を得るためのキーです。
そのためにはDXを推進する立場の人物、特にキーマンとなる人が最終的な決断を下す。そして、それを押し通せる権限と覚悟を持つことが重要です。
具体的な方法としては、外部の意見を活用してDXの必要性を訴ます。そして、新設部門を立ち上げて専任チームを作るという方法。
あるいは経営者自らがイニシアチブを取ってDXを推進するといったことが一般的には考えられます。
ただしこれだけでは幾分かパワーだけで押し込んでいる感がいなめません。ゆえに押し込みすぎると真摯さが足りず結果として反対を生み抵抗され失敗に至る可能性があります。
だからこそパワーを行使するには正当な理由と目的が必要です。
DXを推進する側は、その意義と効果を明確に示し。そして、関係者の理解と協力を得ながら進めていくことが肝要です。
パワーは最終手段だが必要で重要
DXは一朝一夕には成し遂げられません。長期的な視点を持ち、粘り強く取り組んでいくことが必要です。途中で挫折や失敗を経験するかもしれません。しかし、それを糧にして前に進んでいく。そのためにも、DXを推進するリーダーには強いリーダーシップと忍耐力が求められます。
DXは組織にとって大きな変革をもたらします。抵抗や障害は避けられません。
ただそれを乗り越えていくこと。その過程ことが組織は新たな成長と発展を遂げることができる可能性が生まれます。
パワーは最後の手段です。でも、DXを成功に導くための重要な要素の一つだと言えるでしょう。
7.大企業のDXと中小企業のDXは何が違うのか?
では、DXの大前提を踏まえたうえで、大企業と中小企業のDXの違いについて考えてみましょう。
DXに関わる人数が30人から50人を超えるあたりから、組織の様相が変化していくように感じます。そして、150人を超えたあたりから、30人から50人規模の組織がより複数存在するようになってくるのです。
ダンバー数
この30人や150人という数字は、「ダンバー数」と密接な関係があります。ダンバー数とは、人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限を表す数のことです。その中でも、30人という数は「小規模集団(band societies)」の規模とほぼ同数です。つまり、人間が自然と形成する集団の規模と言えます。
組織の重さ
DXを進めていく上で、この小規模集団の力学を理解することは非常に重要です。
30人程度の集団では、メンバー間のコミュニケーションが密になります。その結果、お互いの専門性や強みを理解し合うことができます。そして何より「組織が軽い」です。これにより、DXに必要な協力体制やアイデアの共有がスムーズに行われます。それが効果的な変革を推進することができる理由です。
一方、組織規模が150人を超えてくると、小規模集団が複数存在するようになります。ゆえに、組織全体としてのDXの推進には新たな課題が生じてきます。各集団間の連携や情報共有。そして、全体としての方向性の統一。そのようなポイント必要となってきます。いわゆる「組織が重い」です。
この段階では、単に技術的な側面だけではありません。組織文化やコミュニケーションの在り方など、より広範な視点でDXを捉えていく必要があることがわかります。
大企業と中小企業では、この「組織の重さ」。これこそがDXに関わる人員規模や組織構造が大きく異なる理由です。アプローチの仕方も自ずと変わってくるわけです。
8.大企業と中小企業ではすでにスタート地点が違う。
そしてさらに異なる点は、DXを始めようとするスタート地点です。
中小企業の場合、そもそも業務の自動化が行われていないことが多いのです。つまり、業務プロセスが手作業で行われており、効率化の余地が大きく残されているのです。そのため、中小企業がDXに取り組む際には、いわば「オリジナルシステムを構築し、業務プロセスを一から見直そう」というアプローチが可能になります。新しいテクノロジーを導入する。そして、業務プロセスを抜本的に改革する。ゆえに、大幅な生産性の向上が期待できるのです。
資金力そしてリソースの違いによるスタート地点の違い
一方、大企業は既に一定の規模を持ち、資金面でも余裕があります。また、過去に数千人規模の組織を運営するための業務プロセスがすでに確立されています。
長年の運用の中で、業務の自動化や効率化がすでに進められてきています。
ゆえに新たなDXへの取り組みでは、既存のシステムとの整合性を考慮する必要があります。
特に大企業がDXを推進する際には、レガシーシステムとの連携。そして組織全体での変革マネジメントが重要になってきます。
さらに、中小企業と大企業では、DXに対する投資規模も大きく異なります。中小企業は限られたリソースの中で効果的なDX施策を選択し実行していく必要があります。その一方、大企業は潤沢な資金を活かした大規模なDX投資が可能です。この点は大企業の優位点です。
整合性と革新的
DXのスタート地点の違いは、中小企業と大企業それぞれに固有の課題と機会をもたらします。中小企業はアジャイルでスピーディーなDXの実現が可能ですが、リソースの制約に直面します。大企業は豊富なリソースを活かした大規模なDX投資が可能。その反面、レガシーシステムとの整合性や組織変革の難しさに直面します。
このような違いを理解せずに、大企業が中小企業の画期的な事例を単純に模倣しようとすると、トラブルを招く可能性があるのです。
そのため、
中小企業は
「ゼロベースで業務プロセスを見直し、最適化を図ろう」
大企業は
「既存のシステムやフローに合わせてDXを進めていこう」
という戦略の差が生まれるのです。
違いを受け入れた上での戦略
中小企業はゼロからすべてを改革できるため、DXに完璧に対応できる強みがあります。
大企業は現実的に7割程度の最適化がゴールとなることもあります。
10割の最適化を目指そうとすると、システムの全面刷新が必要となり、直近の話題であるERP導入事件による出荷停止のようなリスクを考慮しなければなりません。もちろん、リスクを許容した上でチャレンジするのも非常に有効なアプローチだと思います。
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もちろんそう言ったリスクを理解していないというわけではないと思います。
結果なってしまっただけで、このようなニュースをみて一方的にDXはダメというのではなく、理解していてもこのようなケースになりえる。
なのにそのトラブルリスクを理解した上で変えようと判断し、そして挑戦しようとする企業が存在するという、波が起きている。そしてこの挑戦を行ったことに対するリスペクトは欠いてはいけないと思います。
だからこそ変革を試みることへの大事さとパワー、そして真摯さが必要だと思います。
9.炎上案件はなぜ炎上するのか。
ここで少しテイストを変えてみます。
炎上案件。いわば事業(計画)が走り出したあとで起きうる問題についてです。
結論、これは多くの地点で最初のスタート地点に問題があります。
というのも、初期段階での意思決定者と実行者との違いです。
意思決定者は物事を走りださせることを目的としています。
対して実行者は物事を安全に進めることを目的としています。
物事が進まなければ意思決定者は責任が発生し、実行者はトラブルが起きれば責任が発生します。
具体的には、例えばシステム構築時に1億かかるプロジェクトがあるとすれば、意思決定者は7000万にしようとするでしょう。進める可能性を高めるために。
ただし1億のままでは進みません。
そもそも7000万でなければ走り出さないプロジェクトもあります。とはいえトラブル必至です。
なのでどちらが悪いということはありません。
ただ結果として1億2000万かかりました。となっては本末転倒です。
もちろん1億で初めても1億2000万かかる可能性もあります。
DXも同じ
DXもそうです。
最初にリスクだけを恐れていたらDX自体が進みません。
でも勢いで始めればトラブルが起きる可能性が高まります。
そのため「炎上する可能性があることを前提にプロジェクトを構築する」のが合理的ではあります。
そこで7000万で行けるといった実行側が悪いや、7000万を求めた決定側が悪いとなると平行線です。
なので「炎上する可能性があることを前提にプロジェクトを構築する」をお互いの前提として進めることで「炎上」が「想定」となり、その時の対応を事前に想定しておくだけでもその時の対応は迅速になる可能性が高いです。
間違っても過去を追求するような、どっちが悪いという論争を始めてはいけません。
最初のスタート地点でしっかりと準備を行い、リスク管理を徹底することが、後々の炎上案件を防ぐための鍵となります。そして、プロジェクトが進行する中で予期せぬ問題が発生した場合も、柔軟に対応するための体制を整えておくことが重要です。これはDXでもかわりありません。
10.共通する点。
そして、企業規模に関わらず、DXを成功させるためには、自社の状況を正確に把握することが不可欠です。ITコンサルティングという言葉が一人歩きしている昨今ですが、自社のビジネスや課題を最も深く理解しているのは、他でもない自社の社員です。
まずは社内でしっかりと現状分析を行い、課題や改善点を洗い出すことから始めましょう。
その上で初めて必要に応じて外部の力を借りる。これがDXの近道です。
DXは一朝一夕で実現できるものではありません。まずは自社の状況を見極める。外部の知見を取り入れる。そして中小企業、大企業それぞれに適した方法論を見出す。
このように着実に歩みを進めることで、デジタル時代に対応した強靭な企業体質を築いていくことできるかもしれません。
11.まとめ
中小企業と大企業では、それぞれに適したDXの解決策があります。
中小企業の場合、ゼロから最新のシステムを導入することで、生産性の向上を図ることができるでしょう。しかし、同時に将来を見据えた拡張性も意識しておく必要があります。数十年後に訪れる可能性のある再DXに備え、柔軟性のあるシステム設計を心がける。そういった点を意識することで長期的な視点でのデジタル化を実現できます。
一方、大企業では、既存のシステムを活かしながらDXを進めていくことが現実的な選択肢となるでしょう。膨大な量のデータや複雑なプロセスを扱う大企業にとって、全面的なシステム刷新は時間とコストがかかります。そのため、現状のシステムを最大限に活用しつつ、部分的な最適化を図る。その順序を踏み段階的にDXを実現していくアプローチが有効です。例えば、7割程度の最適化をゴールに設定する。そして優先度の高い領域から着手していくことで、効果的なDX推進が可能となります。
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